「星空」と兄さん
私は兄のことを「兄さん」と呼んでいた
兄さんは2018年3月30日に53歳で亡くなった
兄さんは2018年3月30日に53歳で亡くなった
原因はお酒
何度も入退院を繰り返した
体がボロボロになっても飲み続け
医者もあきれていた
アルコール中毒や依存症という病気なら
まだよかった
それに向き合えばよいのだから
私たち家族は何十年も悩み苦しんだ
だけど結局
どうすることもできなかった
私はもがき、しばらくは毎日
涙が止まらなかった
ましてや父や母の思いは計り知れない
兄さんは30代のある時期から
一つの挫折を味わってから
お酒を浴びるように飲むようになり
そして暴力
誰も手がつけられない
穏やかな性格の両親から生まれたのに
なぜそのような過激な性格になるのだろう
お酒のせいかというと一概にはいえない
実はその暴力的な性格は中学生の時から始まった
理由は学校の先生のえこひいきへの反発から始まったと両親は思っていた
歳が離れた私はまだ幼かったので
物心がついたころにはすでに兄さんは恐怖の存在であり、家庭内は暗かった
兄さんは高校生になると非行に走った
ワル集団とつるみ、喧嘩や警察沙汰も度々・・
家の中はいろんな物が壊れ標的はいつも母
母の泣く姿を何度も何度も見た
反省しない兄さん
非行に走るような家庭環境ではない
優しくて真面目で一生懸命な両親だ
母を苦しめる理由がわからない
ツッパリやヤクザ映画などが好きだったから
やんちゃが続いてるのかと思っていた
大人になったらきっと落ち着いて
そして結婚でもして家族を持つことができたらきっと変わる
そう望みを託していた
そんな兄さんではあるが、
時々は優しく正義感にあふれるところもあった
仕事に真面目に取り組んでいる時期はお酒をやめることもできたし
末妹の私を傷つけることはなかった
不器用だけど、何か役に立ちたいと接してくれた
姪っ子、甥っ子たちを可愛がった
根底ではすごく優しい人だ
ただ人の何倍も弱すぎて
繊細で
人生うまくいかないことを周りに八つ当たりしてるだけなのだと
ずっとそう思っていた
でもそれは違っていた
兄さんには原因があったことがわかった
先日、あるご婦人が私に悩みを話してくれた
（おそらく30代ぐらいの）娘さんのこと
話を聞いていると
お酒を飲むことと、非行に走ったこと以外は
兄さんと言動が全く同じなのだ
物事を自分勝手に悪くとらえて癇癪を起こし暴力的
母親にばかりあたること
自分は絶対的に正しいと思い、
意図しないことは受け入れない
などなど
でも社会に出て働けるし、理論的な会話も大丈夫だし、一見はなんの問題もない「普通の人」なのである
家族にしかわからないよね・・・
という結論に
そのご婦人はある人からのアドバイスで
その娘さんの検査を受けたとのこと
そして、脳のある一部分に異常がみつかった
発達障害と正常のその中間
要するにグレーゾーンと言われる子供が
そのまま大人になってしまったパターン
だそう
母親に攻撃的なのは究極に甘えているから
特に治療とか対処方法はない
その時、あぁ兄さんも
きっとそれだったんだと直感した
兄さんが子供の時代は
グレーゾーンの子供を支援教育
するという時代ではなかった
あったかもしれないけど
今ほどではないと思う
兄さんはずっと単なる不良扱いだった
いろいろ思いが巡った…
気づいてあげられなかった
何もしてあげられなかった
悔しいし、とても切なかった
私自身の人生にもやや波乱がありつつも
ちょうどジャズシンガーを目指そうと頑張っていた18年前のころ
９．１１の同時多発テロや
イラン,イラク戦争
世界平和を覆すとんでもない事件が起きたことで私の心境は激変した
人間が生まれてきた意味とは
人が目指すべき方向とは
本当の幸せとは何か
その時にふと、怖くて嫌いな存在だった兄さんを受け入れた
かわいそうな兄さん…
苦しんでいるのは兄さんだ
なんとか助けたいと思うようになった
すごく考えて、いろんな本を読んだり
情報を集めた
励まそうともした
人は変われると信じて
私ができることは何か考えた
すごく難しかった
結局何も出来なかった
でも
兄さんの死を決して無駄にしたくない
と今は強烈に思っている
同じように苦しんでる人がたくさんいるのならなんとか伝えたいし
兄のように世間からはじかれるようなことは決してないように…
兄さんが亡くなった後
私の思いは直接伝えられなかったけど
強烈に自分のアルバムを作ろうと決意した
宇宙のどこかにいる兄さんに届くような歌を
「星空」
は、そんな思いで作った曲
私は歌手であり
作詞・作曲家ではない
専門家から見るとど素人の曲かもしれない
でも、この曲が出来上がった時
涙が溢れて止まらなかった
沢山の人に伝わらなくてもいい
一人でも誰かに伝われば
兄さん、今度生まれ変わってきたら絶対に幸せになるんだよ
これが私の心の底からの思い
今の自分があるのは
兄さんがいたから
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